

〜前回あらすじ〜
2011年度の当期損益が2億円の赤字にまで落ち込んだA病院
(民間病院)は、経験豊富な事務長を外部から迎え入れた。新任事
務長は「調査・分析の結果をデータとして、経営計画(@戦略、A
目標、Bアクションプランから構成)を策定し、実現することが、
『経営改革』『経営健全化』にはかならない」と幹部会議で力説した。
注)「A病院」は架空の病院ですが、本稿の経営改革をはじめとする会話の
内容は実在する病院の経営改善事例及び筆者の病院職員やコンサルタントと
しての体験にもとづいています
〜幹部会議の場面〜
今回は、「財務分析のあり方」について議論することにしましょう。
当院では毎年「病院年報」を作成しており、さまざまな経営指標も過去5年分を掲載しています。
2011年度の年報では、「キャッシュフロー計算書」も掲載し、他病院から「経理システムが進んでいますね」との評価もいただいているよ。
病院年報の作成目的は何ですか?
関係者への情報開示でしょうか。
それだけではコストをかけて作成したものを効果的に活用ているとは言えないでしょう。2011年度は当期損益が2億円の赤字になり、「経営が苦しい」 と言っていますが、当院はどうなれば経営が苦しくなくなるのですか?
毎年の当期損益が黒字になればいいのではないかな。
ちょっと適うような気がします。当院は7年前に総工費90億円をかけて病棟を建て直したのですが、その際の自己資金は半分の45億円であり、残りの半分は銀行から借牡でいます。
何年で45億円を返済するのですか?
15年です。毎年3億円ずつ、返済しています。
費用の 「減価償却費」という勘定科目は投資額を複数年度にわたって費用化するものだから、「当期損益+減価償却費」 (CF) が借金返済の源泉になりますね。
すると、CFが毎年3億円あれば財務的に成立するわけか。
しかし、当院は医療機器などを毎年平均5000万円ほど購入していますよねぇ。
はい。医療機器などに対する投資も5年くらいにわたって減価償却費として費用化します。
すると、CFが毎年3・5億円 (3億+5000万) あればOKですね。
借金を全額返済した後はどうなる?
同じようにCFを毎年3・5億円確保できれば、医療機器などの投資を除く3億円が毎年貯まっていきます。
7年前の建て直しの際に自己資金を45億円使用しているので、それを回収していると考えればいいですね。
すると、借入金と自己資本金合わせて90億円を30年間で全額回収できることになるわけか。
当院の場合、建物を法律に基づいて39年間で減価償却しているため、それよりも短い期間で回収しようとすれば当期損益の黒字分で賄わなければならないのですね。
回収期間を39年にすればわかりやすく、楽なのでは?
この回収期間は、経営方針として病院が独自に決定するものです。
当院は自己資金が45億円あったから恵まれているほうですが、もっと借入をしている病院の場合、借入金の返済期間中はさらに多額のCFが必要になります。
急性期医療を提供する病院としては、医療技術の高度化に即応するため、できる限り早く回収して備えておきたいものだ。
国道沿いの紳士服店などでは、10年で建物の投資額を回収する計画で出店しているケースも少なくないですよ。
よし。当院の7年前の大型投資の回収期間は25年として設定しよう。
そうすると、毎年平均5000万円の医療機器などへの投資を固定で考えれば、必要となる年間平均CFは4・1億円 (90億÷25年+5000万) です。これまでの7年間を振り返れば、合計で2億円が不足しています。
その2億円はこれから4年間で取り戻すことにしましょう。ですから、当面は4・6億円 (2億÷4年+4・1億) のCFが毎年の目標になります。
最初から回収期間を定めずに、駄目なら延ばせばいいのでは?
そうすると、累積赤字が膨れ上がり、将来の職員に借金を先送りするリスクが高まります。4・6億円のCF確保をそのときの経営陣の責任として明確にして達成することが、ゴーイング・コンサーン(事業の永続性)としての条件です。
25年間で回収するということは、25年後に大型投資前と同じ財務状態にするということですね。
実を言えば、90億円の投資は少し過剰であったように感じます。「90億円を25年間で回収することは難しい」との認識があれば、90億円を節減する選択肢もあったはずです。世の中、この誤りが非常に多い。今さら言っても遅いですが…。
05年度はCFが8000万円(当期損益△2億+減価償却費2・8億) であるため、今年度は前年度に対して3・8億円のCFの改善が必要になるということか。そのための方策は?
損益計算書を中心とする財務分析が有効です。CFを構成するさまざまな要因について、当院の過去や、収支が良好な同規模・同機能の病院と比較して、どこに問題があるのかを明らかにします。目標CFが達成可能なレベルであるかどうかも把握できます。図は、CFの構造を簡潔に整理したものであり、色塗りの部分が比較の結果として導き出された当院の改善の着眼点です要因ごとに改善策を検討し、経営計画の戦略、目標、アクションプランに反映させることになります。●第2話おわり●

【目標CF算出の留意点】
@本文の記述は、現行規模の医維持を前提としている
A厳密には、CFに固定資産売却損なども加える。また、退職給与引当金の状況などについても考慮が必要である。
B病院事業しか選択肢がない場合、DCF法は活用しにくい。
注1)付加価値=医業収益-材料費 ※比較しやすいように定義
注2)労働分配率=人件費(+委託費)÷付加価値